それなりの規模で話題になっている事を連日目撃するトーマス・ロックリー氏関係の騒動。
自分もちょくちょくX上で言及している訳ですが、流石に一生Xで垂れ流すと見る側がダルいだろうなと思うのでこっちにとりあえず纏めておこうかなと思います。
前提として、こういう事が起きたからといってあんまり極端に追い詰めて当事者の身に何か及ぶような事があっちゃいけないと思うんですよ。
勿論今回の話でもあんま過激な言い方はしないですし、できる限りの譲歩をもって書いていこうと思います。
1.まずは結論から
ロックリー氏が「日本国外向けに出版してる弥助本やインタビューの内容は基本的にフィクションです」と言えば一先ず延焼だけでも止まらないかなぁ……?という感想です。
海外向けの本はフィクションであるにも関わらずフィクションと認識しづらい形で販売されていて、その上でロックリー氏が弥助研究の第一人者として祭り上げられた末に各所のインタビューで調子良く色々言ってしまっているという風に思います。
これの難しい点が、別にロックリー氏本人がノンフィクションだと言っていなくとも、それなりの人数がノンフィクションだと認識してしまうことだと思います。
この辺は日本人も超人気作家こと司馬遼太郎氏のあれそれで身に沁みていると思います。
意外と実在の人物を基にした作品をフィクションだと認識するのって難易度が高いんだと思います。
というか僕自身、極端な所で言うとキッズ時代に遊んだ戦国無双で武田信玄の部下として真田幸村が大暴れしてる事のおかしさに気付いたのそこそこ後になってからでしたし……。
一応秀吉の小説とかも図書館で借りて読んでたんですけどねぇ……。
そんなこんなで信じる人がただ単に愚かだと言いたい訳もなく、人間ってそもそもフィクションか否かを疑おうという前提がなければ作品の描写が上手ければ上手いほどコロッと信じてしまうものだと思います。
例えば知り合いから「おい日本の戦国時代に黒人侍居たって知ってるか!?この本マジ凄かったよ!」って貸し受けて読んだ人が内容に感銘を受けつつネットで弥助について検索するとWikipediaやらブリタニカでそれっぽい話が出てくる訳です。
そんな感じで一旦チェックを噛ませる事でより信憑性が高まってしまう。
その記事の編集を誰がやったのかという更にアレな問題に繋がって来る訳ですが……。
とりあえず今はそこは置いといて、実際弥助本については小説として見れば中々にクオリティが高く海外受けも抜群のようですし魅力的なのでしょう。
ただ、海外向けの本で著名なのって2冊あるんですが、どちらにせよTrue Storyってタイトルに入ってます。
後発本はAmazonだと一応SFジャンルに分類されているのですが、African Samuraiの方はそういう事もないんですよね。
そういう意味で誤解を招きやすい状態になっているのは間違いないと思います。
それを恣意的にやっているかどうかは置いといて、過熱している状況だからこそブレーキを掛ける責任は著者にもあるんじゃないかなと思います。
要するに「嘘でしたごめんなさい」とまで言えと言っている訳ではなく、(勿論人によってはそこまで要求しているとは思いますが)本人のプライドやら何やらが憚られるならとりあえず「フィクションを真に受けるお前らが悪い」という姿勢でも良いので肥大していく弥助伝説に一旦ストップを掛けてくれという感じ。
2.反ロックリー運動について
ということでスタンスは明確にした訳ですが、今回の件で一番疲れるのは国内における反ロックリーとそれに対する反発意見の応酬だと思います。
前提として今回の案件ってナショナリズムを強烈に掻き立てる事案だと思うんですよ。
だからこそ知識に乏しい人も大量に流入して過剰な反発をした結果、そこそこ戦国史を齧っている人にツッコミを受けてしっちゃかめっちゃかになっている様をよく見ます。
一例を挙げると「日本には奴隷制なんてものはなかった」とかね。
大西洋奴隷貿易に類する過酷な黒人奴隷使役のようなものが存在しなかったと言いたいのであって、ぶっちゃけその辺は強い言葉を使いたかっただけなんでしょうけどロックリーの盛りまくった発言を非難する側が適当な事言うのが良くないってのはある訳で……。
僕自身、今回の件で国内外の論文も含めてソース確認をする事になった訳ですが、実際問題骨が折れる作業だなと痛感しています。
そしてその上でロックリー氏の言及を考えると、国内向けの本に関しては当初から言われてる通りわりと慎重というか、手堅い内容になっている感じで。
勿論その中にも「いやそれは流石に……?」という描写はあると思うんですが、ここは難しい所でそもそも日本人だって歴史学者でもない作家が実情の怪しい話をソースもなく流布していたりする訳で、あまり糾弾するのもアレかなと思ったりします。
勿論厳密な史実として取り扱うのであればトンデモ描写は論外という理屈も分かるんですが……この場合は査読を受けた上でのトンデモ描写だったらヤバい一方で一般書籍ならまぁ……トンデモ本で済む範疇ですよねという感じ。
勿論、国内向けであってもNHKの弥助番組のように物議を醸す内容もある訳ですが……。
この番組、つなぐ世界史2の編集を行った岡美穂子先生自身も「母親が真に受けちゃってね~」という話をしたりしますし、前述の一般人はフィクションだと強く前置きされなければ鵜呑みにしちゃうものという話に繋がると思います。
さておき、ロックリー氏の言説を歴史修正主義だと指弾する側も自身がうっかり日本の歴史修正に陥っていないか気をつけなきゃいけないよという訳ですね。
さっき言った通り論文を読むにせよ史料に触れるにせよ、多大な労力が掛かる訳なので趣味の論説は良いにしても本気で武器として振り回すような理屈ははっきりした論拠がなければ同じ穴の狢です。
究極的に言ったらロックリー氏に対してNoを突きつけたい人は下手な事を言わずに海外向けのインタビューに特に絞った発言をするのが丸いんじゃないのかなぁ……という感じ。
あることないこと並べ立てて悪魔化するのは本当に危険です。
3.アサクリシャドウズについて
このゲームどうなるんですかね……?
ロックリー氏周りに関しては「俺等も被害者なんだよ!」という理屈は正直罷り通るかもなぁと思っています。
が、それはそれとして関ヶ原鉄砲隊の件を筆頭に問題はありますし、根本的な話としてゲームの出来があんまり良くなさそうで残念。
ちょくちょくXで言っているのですが、僕って信長の野望Onlineで戦国時代の日本をベースに作った3Dフィールドを冒険できる事に感動したんですよね。
信on自体はPS2時代のMMOとしては流石にFF11が強すぎて長続きしませんでしたが、オープンワールドアクションがあまり好みではない僕でもアサクリであれに近い感動が再び味わえるかもと期待していたので……。
まぁこれに関してはKOEIにいつか太閤立志伝のオープンワールドを作ってもらったりするしか無いのかもしれません。
そういうゲーマーとしての話を除くと、正直ロックリー氏の騒動が大きすぎてアサクリ側への関心はだいぶ薄れている気がします。
前述の通りアサクリ自体も弥助以外の所で怪しい部分が多いですし、ゲームとしての出来以前に著作権なんかでケチも付いています。
ロックリー氏の話が落ち着いたらこちら側の話が再燃する可能性もありますね……。
4.まとめ
ロックリー氏自体の騒動が10年近く掛けて行われてきた事に起因するので複雑怪奇ですし、それに加えて発端のアサクリシャドウズも問題を抱えているという事で本当に入り組んでいます。
僕自身はある程度スタンスもはっきりしましたし、自身のあやふやだった部分の歴史認識もアップデート出来たという事で今回の件については功罪両方あるかもな……と思っている所ではあります。
今後は遁走したロックリー氏がどういう身の振り方をするのか次第ですね。
日本側では官公庁にも話が行っているとの事ですが現段階ではあくまで「ゲームの話だし……」というリアクション。
これは質問の方法上仕方ないリアクションで、今後の質問でアサクリではなくロックリー氏の弥助作品に伴う軋轢の方について回答があるとすればその方面での声明が気になるところ。
個人的に弥助という存在自体は脚色せずとも十分魅力的な存在だと思っていますし、今回の件で歴史学者の間でも「キワモノ」認識されていたらしい弥助について何か発見があれば良いなというポジティブな期待をしてみても良いのかもしれません。
好き放題存在をこねくり回された結果、ケチが付きまくって日本史におけるタブーとなってしまうのは弥助本人があまりに浮かばれませんしね……。
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